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1年で大手企業の新規事業をリリース、全員で価値に向き合うプロダクトマネジメントとは?(前編)

現在、新規事業開発に取り組む企業が増加し、不確実性が高いビジネス環境に対応したプロダクトを開発するため、スタートアップが取り入れているプロダクトマネジメントの手法を導入している企業が増えてきている。

一方で、特に大企業においては自社内のさまざまな壁に阻まれ、思うようにプロダクト開発が進まず、悩んでいる企業も多いという。 そこで今回は、パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社で新規事業推進を担う廉野 剛氏に「大企業におけるプロダクトマネジメント」をテーマに、フライウィールのプロダクトマネージャー横井 啓介と共に語っていただいた。

Panasonic が新たなクラウド事業『sumgoo』の開発に踏み切った理由とは?

自己紹介をお願いします

廉野:パナソニックの廉野といいます。フライウィールにお仕事を依頼した当時は、新規事業の立ち上げ組織、4人ぐらいの部署の中で sumgoo の企画サイドと全体のサポートみたいな立ち位置でした。sumgoo が立ち上がってからはエレクトリックワークスの直下に新規事業推進室ができまして、私はその中でビジネス推進部という、sumgoo に続く新しいものを立ち上げる組織を見ています。sumgoo は、事業化して別途 sumgoo 推進部という部となっています。

横井: フライウィールの横井です。フライウィールではプロダクトマネージャーとして、弊社のプロダクトである Conata(コナタ)™ をはじめとしたパーソナライズ領域のプロダクトマネジメントをしたり、パナソニックさんをはじめ様々な企業さんに入り込んで、各企業のお客さまが抱えている課題、それぞれの企業が成し遂げたい価値といったものを明確化して、実際のプロダクトとしてお届けしていくことを伴走したりしてきています。

『sumgoo』プロジェクトとは

― 今回、廉野さんが手がけ、横井がプロダクトマネージャーとして関わらせていただいた sumgoo についてご紹介ください。

廉野:世の中には建築DXと言われる数多くのソリューションがあるのですが、私達がやった sumgoo では、工務店さんの業務タスクを分析した上で支援し、加えてお施主さんと工務店さんの繋がりを築くソリューションを実現したいと思いました。パナソニックは住宅業界のメーカーでもあるので、その辺の知見や影響力も使いつつ、新しくDXの面から工務店さんの力になりたいと思って作ったプロダクトです。

Panasonic における新規事業開発の実情と課題

― sumgoo 以前には、どのような新規事業の進め方だったのか、その中で感じられていた課題などがあればお聞かせ下さい。

廉野:今もそうなんですが、パナソニックの中でも色んなところが色んなやり方でやってきています。以前には手探りでやってる状態が強くて、プロダクトの作り方は旧態依然といってしまうと怒られるかもしれませんが、ウォーターフォール的に、企画が100%決まってそれに対して物を作って、で、物も100%できないとリリースできない。メーカーは多分どこもそうだと思うんですけど、その品質を含めて、ガチガチに決まっていたりしますね。

横井: どのぐらい期間がかかるものですか?

廉野:普通はですね、早くても2~3年。企画に着手して企画が通るまでに大体1年、そこから開発が始まって大きさにもよるんですけど、それから1~2年ぐらいです。直近で僕がやっていたものはやはり2年ぐらいかかってました。

横井: そこからすると sumgoo は早い?

廉野:信じられないスピードです。やっていて「まさか」と思うぐらいです。

横井: これ、作る側だけの話じゃなくて、企画立案から、開発、リリース、オペレーションといった様々な意思決定がとても速かったですよね。

廉野:当初チーム4人という少人数でやっていたのが良かったかもしれませんね。最初にフライウィールさんにご提案いただいて「持って帰って社内で検討します」とメンバーが言ったのを、僕は止めたんです。もういいと、ここで決心しようと。「もうやりますよね」「やる」っていうGOサイン。普通は1~2週間、独特の大企業の根回しみたいなのがあるんですけど、そんなのすっ飛ばしてやりましょうとその場で決める動き方ができたというのがあるんですね。勝手にやっていたかもしれませんけど、もうそういった権限が僕たちにあるもんだと思ってやっていたし、スピード感を早くしないといけないなというのが根底にありました

― 時間軸的なところに課題が一つあったというところですね。

廉野:そうですね。ゆっくり時間かけていると、他のサービスに場所を押さえられてしまって、もう手が出せないみたいなのあるじゃないですか。それを避けたかった。極論、何でもいいから早く出そう、というような。いっぺんリリースして認知されたら、どう広がるかは僕たち次第じゃないですか。その辺はできるだけ早くやらないといけないなっていうのがあります。sumgoo もそうですし、うちの次の組織で今やってることも大体同じようなスピード感で進めています。

横井: 今回 sumgoo の場合は、ヒアリングしてる最中にある程度、工務店さんの明確な共通課題がわかってきました。あとはその工務店さんが使えるようにするためにどうアレンジするか。なので、去年(2021年)の夏前に早めにα版として使ってもらって、そこで見える課題を導き出して、その後は改善してとにかくリリースできる状態に向けて進めていく、という感じでしたね。

― sumgooプロジェクトを開始されるときに、考えられていた狙いやポイントは、他にもありますか。

廉野:プラットフォーマーにならないといけない、という思いを強く持っていました。まだデータビジネスをどうたてつけていくかは引き続き検討が必要ですが、工務店さんに対してのプラットフォームをちゃんと作ってあげる、というのが大きかったですね。そこに関する議論は、だいぶしたなぁという気はするので。今まで新規でビジネスをやろうと考えてきたのと、大きな目的感が違ったのかなという気はします。

開発に向けた協力会社の選定と新しい発見

― そういった目的感を持たれているときに、協力会社は色々選べるかと思います。その一つとしてのフライウィールだと思いますが、協力会社を選択するときの評価基準はありましたか。協力会社に期待することというのはどんなことでしょう。

廉野:過去ですとウォーターフォールなやり方で動いていったビジネスがほとんどでした。例えば、企画のフェーズは自分たちでやりつつ、どこかのコンサルにちょっと手伝ってもらったりして、企画は企画で終わります。企画の決裁をもらって、開発フェーズになると、社内の担当が、自分たちが今まで仕事をしてる開発会社さんへ持っていく、という分断状態だったんです。実は今回、一番初めは全然違うテーマだったんですよ。フライウィールさんと何かできたら面白いよねみたいな話を最初にしていて、1~2回その議論をしながらも、途中から「ごめんなさい全然違うテーマになったんですけど」みたいなことがありました。

横井: キックオフの頃の話ですね。

廉野:そのときに、当時のフライウィールの仕事からしたら範疇外になるかもという懸念もありつつ、一緒にやりましょうと言っていただき事業企画のフェーズから入ってもらいました。過去の流れだと企画だけご一緒し、開発は自分たちの好きなとこでまた別途やります、という流れかもしれないけど、結局短期でやりたい、同じ目標を持って開発も進めたいところで、もうこのままフライウィールさんと、多分これは最後までやるべきなんだと。結局スタートのときから最後まで、一気通貫でやるべきだなっていう想いが最初からあったし、もうその判断軸で、早くやってしまおうと。事前に議論できる関係性があったのが強かったかなと思います。

横井: 作るものに対する想いみたいなのもあって。僕たちもただ受託してやるのではなくて、結局は工務店さんにどんな価値を届けるかっていうところ、さらには間接的に施主さんにどういうコミュニケーションを届けるかっていうところから、議論を重ねて進められた。僕たちフライウィールも、パートナー開発会社である Sun* 社も、全員がプレーヤーとして入れたのは、3社でやるって一般的には結構難しいプロジェクトだと思うのですが、メンバーみんなが届ける価値にこだわるマインドを持っていたし、パナソニックさんも我々を受け入れてくれて一緒にやろうとしてくれました。

廉野:結構、僕の中で決定的だったのが、横井さんが「僕たちのプロダクト」って言ったんですよ

横井: そうでしたね。

廉野:一言ポロっと。最初は「は?」と思ったんですよ。

横井: 開発初期のディスカッションにおいてですね。

廉野:「この人何言ってるんだ?」って最初思ったんですよ。というのは、僕のスタンスが当時間違ってたんですが、やっぱりお願いした依頼先だと思ってるんで、なんで横井さんが「僕の、自分のプロダクト」って言うのかと。しかもその時、僕が言ったことに対して反論して言ったんですよね。「こうしたいんだ」ということに対して、「いや違う、僕のプロダクトはこうするべきなんだ」みたいなことをポロッと。この人何言ってるんだろうと思ったんですけど、ふっとその後会話したときに、いや違うぞと。受託下請けさんとか、僕たちが依頼してわかりましたやりますってスタンスではなくて、自分たちのものとしてフライウィールさんでこれやりますとか、自分のプロダクトを自分たちがやるものだっていう想いを発言していて、これは頼むべきだと。真面目に、あの会議の場で僕はすごくそう思ったんですよ。

横井: 僕たちのというのもそうなんですけど、結局は工務店さんや施主さんに対してどういう価値を届けるか。その価値をつくるためにどういう世界観ですすめるかを常に考えていました。そこを決めるうえで、もちろん健全なぶつかり合いはたくさんありました。たとえば深夜にみんながドキュメントを通じてやりとりしてたり。なんでみんなこんな遅い時間に同時にこんな書き込んでいるんだろうと(笑)

廉野:しんどかったけど、面白かったですね、はい。

横井: 最終的にお客さんにどういう価値を届けるのか、工務店さんがどういう課題を解決するのか、施主さんとのコミュニケーションをどう円滑にするのかっていう、そういう健全な話し合いができた。それがやっていて一番楽しかったですし、良かったと思います。

廉野:これはフライウィールさんと最後までやるべきだと。同じように「一緒にやっていきましょうよ」って言っても、こういった発言をぶつけてくれる協力会社さんはまずいないですね。結局、発注者受注者の関係で、お仕事を頼むとそれはコストで、費用が別途かかってくるとすぐ言ってくるんですよ。費用がかかってくるのはわかるけれども。一方で横井さんは、プロダクトへの想いを言ってくれたのが、決心したポイントかなと思いますね

大企業における新規開発プロジェクトの理想と実際。プロダクトマネージャーはなぜ求められるのか?

新規事業の成功確率を高めるための要素

廉野:大きな国内のメーカーさんで垣間見られるのは、言葉は悪いですが、新事業ができなくて、既存の事業はしんどくて。切り売りして、どんどんちっちゃくなっていって、結局気がついたら、今の状況というような。新事業を起こすことをやらないといけないのに、そこに力を入れられていない、なんか変な循環になってるのを感じます。それは、やりたくてもやれないのかもしれません。横井さんみたいな人という言い方がいいか分からないですけども、プロジェクトを回せる、回して本当にやりきれる人が必要なのかと思います。

― プロジェクトを進めていく中で、フライウィールが他と違うポイントとしては、プロダクトマネージャーが担当に入るというところですが、プロダクトマネージャーという役職に対する廉野さんの最初のイメージというか、期待値はいかがでしたか。

廉野:これまでの経験では、プロダクトマネジメントを外部の人にやってもらったことがないんです。基本的にプロマネは社内で立てて、開発のメンバーも立てて、その人の領域で動くイメージがメーカー企業にはあります。今回は、うちのメンバーが少なかったのもあるんですけど、初めての経験で、正直最初は素直に上手く行くのかなと思った。最初に横井さんを紹介されて、大丈夫かな、と。横井さんがという訳じゃなくて、プロジェクトとしてそれで大丈夫かなってのはすごい最初思ったんです。でもやっていくうちに、何の心配もなく、この立ち位置の人はもしかしたら社内じゃなくてもいいのかと思えてきた。なるほど、こんな関係かぁ、というのはすごい感じました。

横井: 今回の場合特に3社で、短い期間で進めていかなければっていうのもあったので、1人が全てを意思決定すると絶対ボトルネックになっちゃうんですよ。僕が意識したのは、皆が自分たちで意思決定をしていける状態になること。例えばエンジニアだったら、この目的を達成するためにはこういうふうに作るといいんじゃないか、というのが言えるようにストーリーに目的を明確化したりとか、みんながそれぞれ動ける形で進めることを意識しました。

大企業内でプロジェクトマネジメントする困難とは

廉野:PoCでも何でもいいんですが、立ち上げて終わりっていうケースが周囲にはあって。けれども今回のsumgooもそうだけれど、本来はプロダクトのリリースが目的ではなくて、その後もずっとやっていくという大きな流れの中で作っているじゃないですか。そんな感覚がない中では、やっぱり何か新しいことというのは起きないな、とはすごい思ってて。ベンチャーでは横井さんみたいな方がいて、それが当たり前だったと思うんですけど、大きなメーカーでも本当はそういう人がもっといて、何個かプロジェクトがあって、死ぬ気で皆そこを回して、その次の新しいものをまた作るということが必要ですよね。それが今度の僕らの組織での僕の役目だと思っているのですけれど。

― 先ほどプロダクトマネジメントを任せて大丈夫かなという印象があったお話がありましたが、どのタイミングで信頼をおけると、もう大丈夫だと見極められましたか。

廉野:スタートしてすぐですね。結局、横井さんから、こちらの言葉を開発側の色々なツールを使って開発が進められるかたちに変換してくれた。あの初期段階から、フワッとしている要望を落とし込んで、ちゃんとわかるようにしてくれた。不安だったのは最初の瞬間だけで、やりだしたらすぐいろいろな発信をしてくれて、逆に真面目に勉強になりましたね。

だからこそ、ソリューションとしての「プロダクトマネージャー」

― サービスコンセプトをたてて、それをプロダクトにどう落とすかという点ですね。その言語化ができるのがプロダクトマネージャーだ、という事でしょうか。

廉野:僕らの言葉をすぐ開発会社に伝えるというよりも、ちゃんと翻訳して伝えてくれたって言ったらいいかな。すごいそこは助かったと思うんですね。いろんなミーティングの場でギャーギャー言いながら、多分あんまり伝わってないのかなと思っていたところ、後々いろいろフォローしてくれて、その辺をきっちり伝えてくれて。おかしな所はお互いにちゃんと修正を、こちらに対してもしてくれたのもすごい良かった。

横井: 全体としてコミュニケーションはとりやすかったですね。プロジェクトが始まってリリースするまで、コロナ禍もあって実は1回もオフラインではお会いできませんでしたが、オンラインミーティングだったりチャットだったり、デザインツール上のコミュニケーションも含めて、コミュニケーションはやりやすかったし頻度も高かったと思います。

廉野:だんだん勘所がお互いつかめてくるとね、ちゃんとコミュニケーションがとれるようになったので。最初は「そんなこと進めていいって言ってないのに、なんで進めているんだ」ということも、お互いの感覚なり、考え方が理解できたらその懸念もなくなった。

― 今回の sumgoo プロジェクトを振り返ると、廉野さんにとってプロダクトマネージャーはどんな存在でしたか。

廉野:単純にいなくてはならなくてはならない存在だし、今回に限らず、絶対必要ですよね。やっぱりそういう柱になる人がいないと進むものも進まないし、あとどれだけ魂を込めてやってくれるかというところが大きいのかなと思います。本当、やらされ感じゃなくて、これをやらないといけないという使命感というか、そういうのを持った人がやらないと駄目だなってすごい思いましたね。

横井: 自分がこのサービスを持つんだっていう意思、だと思っています。言い方は悪いですが、パナソニックさんのためにやってるわけではなくて、工務店さんであったり、施主さんのために作っているサービスなので。パナソニックさんが最終的に意思決定するにしても、仕事としてやるというよりはもう、この業界の未来を作るためにやるっていう想いなんじゃないかと思っていました。

廉野:今、僕がやっているもう一つのプロジェクトもなかなかね、その想いを持ってそこの立ち位置で動ける人は、横井さんのレベルでは難しい。その中で、どこまで僕は統括していいかも、すごい悩みながらなんですけど。あんまりやると権限使ってる、ということにもなる。だから「もう動いてくれよ」という想いはある。とはいえ、自分が横井さんのようになって思いを引き出せるかどうか。そういう意味でも横井さんのような存在は必要ですし、ありがたい。いないと何も成り立たないなと思います。

sumgooはパナソニックホールディングス株式会社の登録商標です

後編はコチラです。

 


廉野 剛(パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 新規事業推進室 ビジネス創出部 部長)
2022年4月に立ち上がった、新規事業推進室で新規ソリューションの事業立ち上げを担当。sumgooは事業立ち上げメンバーとして参画。主に事業企画・サービス企画を担当。2014年事業部門に異動する前は、デザイン部門で商品及びサービスのデザインを担当。

横井 啓介(フライウィール プロダクトマネージャー)
顧客に入り込むプロダクトマネージャーとしての傍ら、プロダクトチームのリーダーとしてプロダクト全体の方向性・意味付けを担当。以前はリクルートでデータ&マーケティング関連のプロダクトマネージャー、アカツキで新規事業開発、マイクロソフトで検索エンジン Bing の開発プログラムマネージャー。一般社団法人プロダクトマネージャーカンファレンス実行委員会 理事。