フライウィールは、お客様の事業課題に深く伴走し、進化の著しいデータやAIを扱うビジネスの最前線で、担当者個々の能力を最大限に引き出し、迅速な成果創出に注力してきました。その結果、様々な事例に代表されるような多くの実績を積み重ねることができました。しかしその一方で、培われた知識が個人の暗黙知として蓄積され、組織全体での共有が不足している、また特定の担当者への負担が集中するといった、事業成長を続ける組織が直面しがちな課題が生じていました。
これらの課題を乗り越え、フライウィール のメンバー誰もが、お客様の解決したい課題に向き合い、新たにジョインいただいたメンバーも素早くキャッチアップが進み、皆で確度高く課題を解決できるような標準化された「型」に落とし込みたい。そして、一人ひとりの力を最大限に価値創出へと繋げたい。
そんな想いから生まれたのが、この FAF (FLYWHEEL Agile Framework) です。
この記事では、FAFが具体的にどんなもので、なぜ今私たちに必要とされているのか、そしてどんな要素で成り立っているのか。FAFが単なる業務マニュアルではなく、いかにして私たちの働き方を定義し、成長(GROWING)を加速させる基盤となっているのか。じっくりとご紹介していきます。
FAFとは何か? なぜ必要なのか?
FAF(FLYWHEEL Agile Framework)は、フライウィールがお客さまにデータソリューションを届ける際に、誰でも迷わず、同じクオリティで前進させるために用意した標準化された仕組みです。ポイントは大きく三つあります。
まず一つ目は「品質と価値の安定化」です。デリバリーの進め方をそろえることで属人化を防ぎ、担当者の経験年数や入社歴にかかわらず、常に一定以上の品質を保てるようにします。これにより、お客様が受け取る価値のレベルを底上げし、事業全体の顧客満足度を高める狙いがあります。
二つ目は「知のFLYWHEEL」を回す仕組みです。現場で得たベストプラクティスや学びを後に説明するCarte・Guide・Template・Checklistに即反映し、チーム全員がすぐにアクセスできる状態にします。活用された知見はさらに改善され、再び共有される――この循環を繰り返すことで、ナレッジが加速的に蓄積・進化していきます。
三つ目は「本質的な価値創出への集中」です。標準の手順やテンプレートが整っているため、プロジェクトごとに「まず何を決めるべきか」と手探りする時間が減少します。その分、リーダーやメンバーはお客様の本質的な課題解決や創造的な提案にリソースを投じやすくなります。
FAFの標準化は、単にルールで縛るような守りの発想ではありません。むしろ私たちが目指すのは、徹底した“攻めの標準化”です。
定型業務や管理タスクを効率化することで、プロジェクトメンバーは本質的な価値提供という、より創造的で大きなインパクト(IMPACT)を生む仕事に集中できます。FAFの本質は、まさにそうした「時間と心の余裕」を生み出すことにあるのです。
FAFを支える5つの大切な原則
FAFは、私たちがフライウィールとして大切にしている価値観と深く連携しながら、以下の5つの原則に基づいて設計されています。
CLEAR (明確に) :
データや文章による明確な定義を通じて、誤解なく物事を進めます。これはフライウィールの価値観である「Believe in Data(データを信じよう)」とも通じる考え方です。
IMPACT (価値創出) :
顧客への価値創出を基準に、すべての意思決定を行います。フライウィールの価値観「Focus on Impact(インパクトあることに集中しよう)」と深く関連しています。
GROWING (継続的成長) :
常に学び、常により良い方法を探し、プロセスやアウトプット、チームを変え続けることを良しとします。これはフライウィールの価値観「Disagree and Commit(議論を尽くし、決定したらやりきろう)」とも連携しています。
OPEN (オープンに) :
関係者全員が会話しやすい環境を作ることを意識し、心理的安全性の高い、オープンな開発文化を育みます。フライウィールの価値観「Engage with Respect(敬意を持って向き合おう)」に対応する原則です。
TEAM (チームとして) :
お客さまも共通のゴールを目指しているチームの一員として、一丸となって進めます。フライウィールの価値観「Grow as One(一丸で挑もう)」に基づいています。
これらの原則は、ただのスローガンではありません。日々のプロジェクトを進める中で、私たちが迷った時、どうすれば良いか決める時の羅針盤となる、大切な指針です。
FAFを構成する4つの要素
さらにFAFは、プロジェクトのさまざまな側面をきちんとカバーできるよう、以下の4種類の要素で構成されています。
Carte (カルテ) :
プロジェクトの全体像と方向性を定めるドキュメント。 全員の目線を合わせるための「航海図」です。すべてのデータソリューションの構築に絶対に必要で、プロジェクトメンバー全員がいつでも参照できる情報源となります。
Guide (ガイド) :
スクラム開発の進め方など、特定アクションの手順を示す読み物。 これにより新規メンバーのキャッチアップコストを下げます。アクションごとに用意されていて、特に経験の浅いジュニアメンバーが「なるほど!」と参考にできるよう、読み物のような感覚で活用できます。
Template (テンプレート) :
週次定例やPRD(プロダクト要求仕様書)などの共通フォーマット。 品質のばらつきを防ぎ、ドキュメント作成の時間を短縮します。Google DocsやMiroのテンプレートとして提供されます。
Checklist (チェックリスト) :
プロジェクトの各フェーズで確認するチェックリスト。標準的な確認事項を項目単位で確認・記載・チェックすることで、抜け漏れに自分も周囲も気付けるようにします。

FAFを活用した具体的な進め方
データソリューションのプロジェクトは、FAFの各マテリアルを段階的に活用しながら進められます。プロジェクトの中でFAFがどのように活用されているのか、プロジェクトのフェーズに沿ってご紹介します。
1. 立ち上げと計画(CarteとGuideの活用)
プロジェクトの初期段階では、Carteが中心的な役割を果たし、Guideがプロジェクトのスピーディーな立ち上げを支援します。
Carte :
- Program Board:顧客の課題解決とビジネス価値向上に向けた全体像、中長期ビジョンを明確化。
- Project Board:個別の契約範囲、QCD(Quality, Cost, Delivery)を明確化し、顧客合意を形成。
Guide :
- プロジェクト進め方ガイド:プロジェクトの迅速な立ち上げをサポートし、必要なツールのセットアップや社内外のキックオフを支援。
- 例: Jira, Slack, Miroなどの環境設定、顧客データはData Repositoryの使用を指示。
- キックオフミーティングの必須項目(目的、期間、役割など)も設定。
2. 実行フェーズ(Guide, Template, Checklistの活用)
実行フェーズでは、Guide、Template、Checklistで効率的かつ確実な進行を支援します。
Guide:
- 「Data Agent の進め方ガイド」やFLYWHEEL流にカスタマイズした「スクラム開発ガイド」など、具体的な作業手順を指示。プロジェクト管理方法を一から計画する必要がなくなり、クリエイティブな作業により多くの時間を費やすことができる。
Template:
- 資料作成や情報整理の工数削減。
- 例: 週次定例、キックオフ、PRD、Retrospectiveの各テンプレート。共通アクションを漏れなく記録し、プロジェクト全体像の把握にも貢献。
Checklist:
- 「プロジェクト進捗チェックリスト」を用いて、「やるべきこと」「確認すべきこと」を明確化し、抜け漏れ防止。
- 例: 「案件開始前にやること」「プロジェクト最初の2週間でやること」などフェーズごとに用意されている。進捗把握が容易になり、マネージャーも適切な進行ができているかを確認できる。
3. 継続的な改善と管理(GuideとChecklistの活用)
FAFは、プロジェクト推進に加え、継続的な改善も重視します。GuideやChecklistを活用し、定期的なミーティングや振り返りで品質向上を目指しながら、安定した保守運用を支援します。
Guide:
- ミーティング計画 : Kickoff, Standup, Retrospectiveなど、必要なミーティングの種類、アジェンダ、頻度を定義。
- レトロスペクティブ(振り返り): MiroとRetrospective Templateで定量的指標を確認。「Keep」「Problem」「Try」を抽出し、成果と効率の向上を図る。
- 保守運用 : 「 保守運用立ち上げ作業ガイド」で保守運用の立ち上げから進行までを定義。本開発から保守運用への移行時の作業洗い出しが不要になり、爆速な立ち上げと安定稼働を実現。
Checklist:
- 「保守運用チェックシート」を用いて、リリース前のシステム稼働状況、スケジュール、コミュニケーション、モニタリング、障害対応、保守作業、契約など多岐にわたる項目を網羅し、抜け漏れなくスムーズな移行をサポート。
このように、FAFはCarteでプロジェクトの方向性を定め、Guideで具体的な進め方を示し、Templateで作業の効率化を図り、Checklistで品質を担保しながら、プロジェクトを効果的に推進するフレームワークとして活用されています。
FAFが生み出す、チームにとっての真の価値
FAFを導入することで、私たちは以下のような価値が生まれると考えています。
顧客への提供価値を最大化する「信頼」のデリバリー
メンバーの経験に左右されることなく、常に一定水準以上のデリバリーを維持できるようになることで、お客様に提供する価値を最大化することができます。品質のばらつきがなくなることで提供価値の基準が底上げされ、事業全体として顧客満足度を向上させることを目指しています。
“攻め”の標準化が解放する「創造性」
標準化されたプロセスやTemplateがあることで、プロジェクトの準備や管理タスクからメンバーが解放されます。その結果生まれた時間とエネルギーを、お客様の本質的な課題解決や、より創造的な活動に費やすことが可能になります。これは、ルーティンワークから解放され、より価値の高い業務に集中できるという“攻め”の標準化がもたらす大きなメリットです。
心理的安全性の高い「オープンな開発文化」
FAFは、「ヒーローを作らない」という考え方を大切にし、特定の個人に業務や責任が集中することを避けます。OPENとTEAMの原則に基づき、誰もが気軽に、かつ率直に議論できる環境を育みます。これにより、調整業務に追われることなく、チーム全体で課題解決にあたる本質的なプロジェクト活動に集中できるようになります。
チームの成長を加速させる「知のFLYWHEEL」
きちんと定義されたプロセスや知識が共有されることで、新しく仲間になったメンバーもプロジェクトや業務内容に素早く慣れ、すぐにチームに貢献できます。FAFは一方的に学ぶだけの仕組みではありません。現場での成功体験や学びは、GuideやChecklistを通じて即座に組織全体に還元され、フレームワーク自体を更新していきます。一人ひとりの経験が組織のナレッジを進化させ、次のメンバーの成長を支える。この成長の好循環こそ、私たちが目指す「知のFLYWHEEL」なのです。
まとめ
FAFは、私たちフライウィールが持続的に成長し、お客様に最大限の価値をお届けするための、進化し続けるアジャイル開発フレームワークです。標準化されたプロセス、明確な原則、そして共有される知識やツールは、チーム全体が効率的に連携し、高品質なデリバリーを実現するために、欠かせないものとなっています。
このFAFを上手に活用することで、私たちはチームとしての力を最大限に引き出し、どんなに複雑な課題に対しても迅速に、そして柔軟に対応し、お客様と一緒に大きな成果を生み出すことを目指していきます。
Author:
大柳 岳彦 Director, Product & Project Acceleration
横井 啓介 Group Product Manager
熊谷 晃 Sr.Program Management