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近未来のマーケティングを実現するパーソナライゼーション エンジンとは?

こんにちは。フライウィールでデータ アナリストをしている吉野です。今回は、デジタル変革推進者に向けたパーソナライゼーション エンジンの重要性と実現方法について簡単にご説明します。パーソナライゼーション エンジン(プラットフォームと呼ばれる場合もある)とは、最先端企業と類する一歩先のパーソナライゼーションを自社サービス内で実現する機能・サービスを指します。
最近、スマートフォンでブラウジングしていると、様々なサービスで「あなたへのおすすめ」と表示される商品・コンテンツをよく見かけるようになったかと思います。「あなたへのおすすめ」という個々人を対象にした一覧表示には、商品・コンテンツの類似性、閲覧者の趣味嗜好、過去の消費行動に合わせて適した情報やコンテンツを届ける手法が活用されています。このような手法は一般的に、“パーソナライゼーション” と呼ばれています。
実はパーソナライゼーションはその粒度や精度、網羅性によって大きな差があり、Amazon や Facebook、Google、Netflix など最先端テクノロジー企業は一歩進んだパーソナライゼーションを顧客に提供しています。具体的には、サービス内に「あなたにおすすめ」と表示するだけではなく、ユーザー行動を予期したパーソナライゼーションをユーザーとのあらゆる接点で一貫した活用を行っています。
一般的な企業は、ルール単位で作成したセグメントごとに異なる文面でメルマガを配信するなどに限定され、上記の最先端テクノロジー企業に類するパーソナライゼーションを実現できているとは言い難い状況です。アクセンチュアの調査によると、約44%の消費者は、小売業者が個々にカスタマイズされたショッピング体験を提供できないことに不満を感じています。* 今後はこのような傾向がより強くなっていくと考えられ、適切にパーソナライズされた体験を提供できていないと売上やロイヤルティの低下を引き起こしてしまう可能性が高いです。
*出典 : U.S. Consumers Turn Off Personal Data Tap as Companies Struggle to Deliver the Experiences They Crave, Accenture Study Finds
前置きが長くなってしまいましたが、短期的には売上を、長期的には顧客のロイヤルティを向上するための、パーソナライゼーション エンジンの重要性と実現方法について、2回にわたってお届けします。

目次

(本編)

  • パーソナライゼーション エンジンとは?
  • パーソナライゼーション エンジンを導入するメリット
  • なぜ今、パーソナライゼーション エンジンが重要なのか?

(続編:11月4日公開予定)

  • パーソナライゼーション エンジン導入を阻む一つの要因
  • パーソナライゼーション エンジンを利用するには
  • まとめ

 

パーソナライゼーション エンジンとは?

パーソナライゼーション エンジンと言う単語はあまり聞き慣れない言葉かと思います。ただ、2020 年現在、観測できている範囲で 50 以上のパーソナライゼーション系のサービスを提供している会社が存在しています。日本においても導入が進んでいくであろうパーソナライゼーション エンジンについて、その定義を簡単に理解してみましょう。
世界有数のテクノロジー市場調査大手の Gartner はパーソナライゼーション エンジンを以下のように定義しています。「個々のユーザーに関するコンテキストを適用して、コンテンツ、オファー、その他の対話などのメッセージングをデジタルチャネルを通じて選択、調整、配信するソフトウェア。マーケティングやデジタルコマース、顧客体験の 3 つのユースケースをサポートしています。(意訳)」
(原文)
Software that applies context about individual users to select, tailor and deliver messaging such as content, offers and other interactions through digital channels in support of three use cases: marketing, digital commerce and customer experience (CX).
Magic Quadrant for Personalization Engines, 2020/07
要するに、パーソナライゼーション エンジンを使うことで、顧客それぞれに対して“記憶に残る” メッセージやコンテンツを提供でき、それが購買体験に紐付けられ、結果として顧客満足度を向上させることができるようになります。「あなたにおすすめ」表示をすることはパーソナライゼーション エンジンの一部機能でしかなく、一般的には以下の性能・機能が含まれています。これらを使いこなすことで、顧客との個別化されたコミュニケーションを半自動的に実現することができます。

  • セッション中の顧客行動追跡、データ収集、統合、外部連携
  • 統計手法や機械学習を活用した予測分析などのデータモデリング、顧客のセグメンテーション
  • 顧客とのあらゆるタッチポイントでの、ルールやアルゴリズムベースのターゲティング
  • 特定の行動や時間、イベントを利用したトリガー、配信のプロセス自動化
  • 個別化された商品やコンテンツのレコメンド、検索結果の提供
  • 顧客が次に行うべき最良の行動(Next Best Action)やオファーの提示
  • ビジネス目標に合わせたアルゴリズム最適化や A/B テスト
  • 効果計測やレポート、インサイトの生成・提供
  • …など

パーソナライゼーション エンジンを導入するメリット

ユーザー側にとってのメリットはユニークで、一貫して、同期された顧客体験を受けられるという点に集約されます。サービス提供側も得られるメリットが多く、テクノロジー市場調査大手の Gartner 社は、2020年までに顧客の意図に沿った体験を提供するために使用されるパーソナライゼーションエンジンによって、デジタルビジネスは最大15%も利益を向上させることができると予測しました。* 収益へのインパクト以外にも以下の点で、効果的な影響が見込まれます。
*出典 : Gartner 社Instagram

  • リアルタイムの顧客インサイトや在庫の見える化が可能
  • マーケティングに関わるマニュアル作業の削減
  • 収益化やキャンペーン促進などその時々のビジネス目標をサポート
  • マーケティング キャンペーンで個別のメッセージを提供できる
  • 広告経由でのランディングページからの CVR を高められる

ここまで読んで、もしかしたらこんな疑問が浮かぶかもしれません。「パーソナライゼーション エンジンが提供している機能は、マーケティングやメディア管理をするチームが外部ツールなどを使って、部分的に実現できているから必要ないよ」「必要かもしれないけどビジネスへの影響が分からないから、他の企業が使いだしてから導入を検討してみるよ」と。

なぜ今、パーソナライゼーション エンジンが重要なのか?

顧客や市場の環境の変化を紐解いていくと、パーソナライゼーション エンジンが今、必要な理由が見えてきます。大きく 3 つのポイントがあり、他社に先行して導入を進めないと一気にビジネス状況が暗転してしまうかもしません。

1. 顧客の要求が厳しくなってきている
顧客は、デジタル上の体験が自分自身のためにカスタマイズされていることを期待してしまっています。もっというと、良い意味でパーソナライズされていることを当たり前と思ってしまっています。関連がない情報や過去の行動やコンテクストを踏まえていない情報の提供は、顧客の記憶に残らず無視されてしまい、最悪の場合はロイヤルティが下がってしまうかもしれません。サービス提供側としては、そのようなユーザー側の厳しくなっていく要求を満たすことが求められています。
2. いつでもどこでも消費・購買ができる
COVID-19(新型コロナ)危機が起きたことにより、リアルからデジタルへの移行がより一層加速されてきています。つまり、スマートフォンを通じていつでもどこでも 24 時間 365 日が買い物のタイミングで、買いたいと思う商品を発見したら指先ひとつで購入できるという消費行動となっています。企業からのコミュニケーションの全てが購買体験に紐づけられるため、メールを見ている瞬間やプッシュ通知が出てきた瞬間、EC サイトを訪れた瞬間など複数あるタッチポイントでその時々の個別化された体験を一貫して提供しなければなりません。
3. コミュニケーションチャネルの選択肢が増えている
LINE や SMS、メール、オウンドメディア(アプリ・Web)などサービスとユーザーをつなぐコミュニケーション方法はますます増えてきました。Eメールといった特定のコミュニケーション ツールだけを使って多くの人に情報を届けること難しく、網羅的に活用しなければなりません。現代人の集中力は短くなったという話もあることから、ユーザーの注意を引き付けて行動に結びつけるには、それぞれのチャネルでパーソナライズされた印象に残るコミュニケーションの実現が必須です。

前編のまとめ

こういった市場環境を鑑みて、パーソナライゼーション エンジンの導入を検討しよう考えた方も多いかと思います。ただ、実は導入を進めるに当たって一つ大きな落とし穴があります。次回のブログでは、パーソナライゼーションに関わる力を最大限に、自社のDXにて発揮するための注意点などをご紹介していきます。お楽しみに!


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また、データアナリストとしてクライアントのDXをデータの観点から支援していくメンバーの採用も積極的に行っています。



Author: 吉野 祐輝(フライウィール データ アナリスト)
機械学習や統計解析を用いて、顧客データの要件分析から製品導入時の効果検証までデータ分析に関わる業務を全般的に担当。前職のGoogleでは、日本市場を含めたアジア太平洋地区のアプリディベロッパーに対して、データ分析を活用したマーケティング戦略策定を支援。